タイピングの大会をeスポーツとして楽しめるためにはどうしたら良いのか、動画の配信画面を見て思いついたことをいろいろ書いてみます。
先日行われたタイピングの大会、RTC 2018(REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2018)の配信画面を見ながら、「こんな画面だったら良いな」と思う点と、その根拠を書ける範囲で。
全体的に言えることとして、「普段からタイピングを能動的に練習している人にとっては楽しめるけど、そうでない人には凄さが伝わりにくい」ということ。
今回のRTCの場合は、WeatherTypingをプレイしたことがある人だったら1000KPMは異常に速いし、出題ワードが溶けていく様子を眺めると絶対に自分にはできないことがわかって凄さを実感できますが、競技タイピングの世界を知らない人はそれがどのくらいすごいことなのか分からない。
そのギャップを埋めるためにあったほうが良いなと思った点が以下の通り。そしてこの記事のテーマ。
- 手元カメラ
- 打鍵音用マイク
- スマホで見られるフォントサイズ
これに関してはツイートで、叩き台の画面を提示してみたんだけど、140文字だとどっちみち書ききれないので、
なぜそうしたほうが良いのか、見られるeスポーツとして普及させたい場合の視聴者層や、使用端末の違いなども例に出して説明していこうかと思います。
※ただし自分で配信した経験は無いので、具体的にどうすれば実現できるのか方法までは分からない事が多く、結構な無理難題を書いちゃってる可能性もあります。
●RTC(REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP)
リアルフォース・タイピング・チャンピオンシップ。
Realforceというキーボードを販売している東プレ株式会社主催による、タイピングの全国大会。2017年から毎年開催されている。
●KPM(keystrokes per minute)ケーピーエム
1分間あたりの打鍵数。
※使用するタイピングソフトによって文字数やタイミングが違うので、同じソフトで比較したほうが良い。RTCで使用されているWeatherTypingの場合はトップレベルの選手でローマ字入力が1000KPM(秒間16~17打鍵)以上になる。
●fps(frames per second)エフピーエス
1秒あたりのフレーム数。
動画の滑らかさの目安になる。YouTubeの仕様は今のところ最大60fps。民生機のビデオカメラも60fpsが一般的なので、現状は60fpsでの撮影が無難。一応、30fpsあればタイピングの凄さは伝わる。15fpsだと打鍵数よりコマ数が少なくなるので速さが伝わらなくなる。
もくじ
タイパーの手元カメラ
タイピングの大会において手元カメラがあったほうが良いのかどうかという議論を少し見かけましたが、個人的には「手元を見たい」に一票。
その理由として「一般の(タイパーではない)視聴者に凄さが伝わるから」です。
これは先程も書いたとおり、タイピングがある程度速い人であればKPMや正確性でどのくらいすごいのか分かりますが、そうではない人、スポーツを観戦するだけの立場から見ると、「凄い人がどのくらい凄い」のか分からんわけです。
もし手元カメラがあった場合は、指の動く速さで一目瞭然なことに加えて、
- 「え?小指使ってないのになんでそんなに正確に打てるの?」
- 「ホームポジション通りじゃない人がたくさんいる!」
- 「決まった指でキーを叩いてない?(最適化)」
- 「指長い!(もしくは短い!)」
- 「叩く強さが激しい!(もしくは速いのに静か!楽そうに打ってる!」
とか、とても多くの視覚情報が得られます。
プロスポーツ選手に例えると、フォームがすごく独特なのに結果を出す人もいるわけです。
指先の立ち振る舞いを見るだけでも選手の特徴が見て取れるので、よりタイプの違いが楽しめると思うんですよね。
そして何より、実際に打ってるという現実感が伝わってきます。
トップタイパーの打鍵速度は現実感に欠けてしまうほど、あまりにも速いので、流れる文字だけ見るとまるで機械が打ってるように見えてしまいます。
それを実際に人間が打ってるということが分かるだけでも、初めて見た人の衝撃は全然違ってくるんじゃないでしょうか。
YouTubeを探すと、ひろりんごさんがWeatherTypingを手元あり無し両方投稿していたので分かりやすい比較ができました。
↓こちらが手元・打鍵音無し(ゲーム中の打鍵効果音はあり)。
RTC本戦と同じ条件ではありませんが、1101KPMなので間違いなくトップタイパーの打鍵動画です。
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↓こちらが手元・打鍵音あり。(ただ、カメラが30fpsを下回っているので、指の速さがよく分からない)
↓こちらは上から視点ではないけど30fpsで、どれだけえげつない速さなのか分かる。
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さて、これらの手元を見たあとに、約半分のスピードである自分の動画を見てみると、どれだけ速さが違うのか一目瞭然です。
上記ひろりんごさんの動画が1101~1192KPM。それに対して576KPMの見た目が以下のようになります。
競技タイパーと比べるとものすごく遅いですが、そんなにタイピングしない人が見たらこれでも「速い!」という評価になってしまいます。(2倍も速さが違うのに)
つまり、最初に貼り付けた、手元・打鍵音無し(打鍵効果音あり)の動画では、競技タイピングのことをよく知らない人から見ると、「凄い!凄いんだけど、どのくらい凄いのか分からない」ということになってしまいます。
eスポーツとして多くの人に見られて、SNSでも拡散されることも視野に入れるなら、手元カメラはあったほうが良いでしょう。
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※ここまでは競技タイピングの世界をあまり知らない人に見てもらうための内容。
次は運指を考えたいタイパーの練習材料としての話。
競技タイパーなら運指の参考になる
YouTubeで真上視点の手元カメラを全試合撮影できれば、再生速度を遅くすることで、運指の分析ができます。
現在、タイピングの最適化に関する情報はいくつかのブログで見られますが、テキストで書かれると読み解くのがとても大変で、よっぽど意欲がないと読む気が起きないかもしれません。
- ①指番号 → nji789
- ②指の名前 n(右人) → j(右中) → i(右薬)
運指について書かれる時は、すでに法則を知っているタイパー向けであれば①指番号が使われますが、知らない人は少し説明が無いと意味がわかりません。かと言って②指の名前をいちいち記載すると長くなって読みにくくなります。
それが、手元カメラがあれば、問題文と打鍵のタイミングが一致しているので、どのキーをどの指で打鍵したのかすべて観察できて、さらにはその時の手の開き具合や手首の角度がわかります。
「REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2018のスコアを取ってみた」によると、RTC2018では合計で1,300回以上もワードが出題されています。
これだけ膨大な量の練習材料があれば、上位を目指しているタイパーにとってはありがたいんじゃないでしょうか。
なお、後述しますが、タイパーの速度による運指を観察しようとしたら秒間60コマで撮影しないといけません。
手元カメラの視点
手元カメラを映すなら、真上からの視点が無難かなと思います。
- ホームポジションの位置
- どのキーをどの指で叩くか
- ワードによる運指の違い
- 親指の使い方
など、得られる情報が一番多そう。
選手によって机の端からの距離が違うので、最低でも前後位置の調節は可能なように。
ただしパン操作(首振り)で調節すると見え方が変わってしまうので、できればレールやブームスタンドのようにスライド移動して真上から撮影できるように)
RTC2019では真上視点のカメラは実現しましたが、位置調整はできなかったようで、キーボードを手前に置く選手では指先しか画面に映らない場面もあり、運指が見えにくくなっていました。
カメラのfps(秒間コマ数)
先ほどの動画で見たとおり、一応30fpsでもトップクラスの激しさは分かるけど、60fpsが可能であれば理想。
後でアーカイブ動画を見るとき、60fpsで撮影された動画であれば、YouTubeの再生速度を0.25倍速にしたら15fpsになり、見やすさがだいぶ違ってきます。
※ただ、生放送で60fpsを確保するのが難しいかも。
※追記:RTC2019では60コマで配信されたので、0.25倍速でも運指が見えるようになりました。
カメラを増やすコスト
新たにカメラを2台増やしてそれを配信で流すということは、やりくりするコストも結構増えそう。
それだけの映像を処理して生放送の配信に載せるということはパソコンの性能もすごくないといけない?
でも具体的にどんなことが大変になるのか全然わからないので、自分には何とも言えません。
打鍵音用マイク
さっきの動画の比較でもわかるけど、実際の打鍵音が聞こえると、どれだけ激しい競技なのか伝わりやすくなります。
ゲームの効果音だとすべて音が同じ音量で鳴るので、なんとなく「鳴り続けてる」ように聞こえなくもない。
一般の人が想像する速いタイプ音は以下のようなイメージですが、
- カタカタ、カタカタカタ
- ダダダダダダダ
競技タイパーの打鍵音は、
- ザーーーーーーーーーー
- ザッ!
- ジャラ!
- グシャ!
- バン!
のように、最初から最後まで途切れなかったり、瞬間的に押しつぶすような、普通の人が想像もできない打鍵音になります。
チャンク化により3~5打鍵程度がワンアクションで入力され続けるイメージ、といっても普通の人にはわからないでしょう。
こういう音はゲームの効果音では再現できないので、YouTubeの配信で実際の打鍵音が聞けるようになると、より一層競技タイピングの激しさが伝わります。
マイクの指向性
RTCで生の打鍵音を撮るためにはどのようなマイクを使えばいいの?という話です。(といっても自分も経験があるわけじゃなく、理屈から考えているだけですが)
RTCの実況解説は(当然ですが観客に聞こえるように)音量が大きく、競技中も盛り上げるためにかなり喋っています。
なので、実況の声をマイクに入りにくくして、ピンポイントでキーボードの打鍵音を拾わないといけない環境というのが前提になります。
こちらは現地を撮影されたファミ通さんのツイートより。
タイピング日本一決定戦“REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2018”の模様を少しだけ。 #RTC2018 pic.twitter.com/EsxzntmBNj
— ミス・ユースケ (@satoukousen) December 3, 2018
実況の音声はライン入力で配信にのせているので、打鍵音用のマイクが実況音声を拾ってしまうと、音がかぶり、微妙なタイムラグが発生する可能性もあります。
なので、打鍵音用マイクには実況の音声を入れないようにしないといけません。
で、マイクがどの角度の音を拾うかという指向性を見てみると、
一般的な「単一指向性」だと60°くらいなので全然ダメで、おそらく超指向性が必要になりそうです。
音量差を考えると、横方向からの音をシャットアウトしないと、打鍵音を拾うことができないだろうと思われます。
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RTC2019では残念ながら採用されませんでした。
このマイクの問題はカメラを増やすよりもロケハンの確認事項が多く、難易度が高くなるかもしれませんが、競技タイピングの魅力を伝えるという点ではぜひ頑張ってほしいところです。
スマホ視聴を意識したサイズ
YouTubeの視聴に使われる端末は何が多いのか調べてみました。
↓2017年12月調査。スマホでの視聴が多い(ただし対象者がスマホ所有者なので大きめに出そう)
スマートフォン所有者を対象に、動画を視聴する際によく利用するデバイスを複数回答で聞いたところ、「スマートフォン」が76.5%となり、「PC」38.8%および「タブレット」21.9%に大きく差をつけた。どの世代でも同傾向がみられたが、特に10代ではスマートフォンの利用率が高く85.5%となった。
↓2017年6月の調査。全体ではスマホ68%で最も多いが、年代によって全く傾向が違うことも分かる。
1週間に1度以上、動画コンテンツを視聴している人が、普段、動画コンテンツを視聴する際に使用するデバイスとして最も回答が多かったのは「スマートフォン」でした(68.0%)。年代別で見ると、10代では「スマートフォン」が93.9%、「パソコン」が39.4%であったのに対し、60代では「パソコン」が82.4%、「スマートフォン」が43.2%※複数回答あり。
引用:10代の動画視聴はスマホ9割にパソコン3割、60代はパソコン7割にスマホ4割 視聴者の約3割が1日60分以上視聴 | Pick UPs!
↓古い(2015年)ですが、YouTubeのスマホ利用がPCの1.6倍というデータ。
「YouTube」はスマートフォンからの利用者が3,000万人を超え、PCの1.6倍となっていました。
引用:YouTubeのスマートフォンからの利用者は3,000万人超 ~ニールセン、「ビデオ/映画」カテゴリの最新利用動向を発表~ | ニュースリリース | ニールセン デジタル株式会社
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また、自分のYouTubeチャンネルのアナリティクスを分析してみました。
全体としてはスマホ73%、PC16%、タブレット10%と、スマホが圧倒的に多かったですが、流入元によって大きく違うので、実際はもうちょっと少なくなりそう。(ゲーム機・テレビは少ないので非表示にして、合計が微妙に違います)
上記集計表の中で「トップおすすめなど」という部分は、評価が高くなった動画が含まれないと表示されない流入元なので、おそらく普通はスマホ60~70%あたりが現実的な割合になってくるんじゃないかと思います。
だとしてもパソコンよりはスマホのほうが多いので、YouTubeに投稿することを考えるなら、スマホで視聴されることを前提に画面構成を考えたほうが良い、ということになります。
欲を言えば、Twitterでシェアされた時、まず縦画面で視聴されるので、縦画面での視聴でも大丈夫かどうか確認を。
数時間のアーカイブを視聴する人なら横画面にする可能性は高いかもしれませんが、例えばダイジェスト動画のように、短い再生時間でSNS拡散も狙うのであれば縦画面が重要になってきます。(iPhone 7だと画面横幅が約6cm)
なので、最初に貼り付けた叩き台も、勝負に関わってくる正誤率を最も大きくしたり、手元の部分を大きくしています。
ちなみにどの画面サイズで動作確認するかは、「スマホの画面解像度シェアを調べてみた(2018年1月版) | WEBSEEYA(ウェブシーヤ)」という記事を見るとiPhone 7(4.7インチ)の解像度である375×667がトップで、それ以下の解像度の上位3つだけで63%を占めるので、iPhone 7サイズを基準に確認すれば良いと思います。
おそらくiPhone・Android両方を考えた時、スマホの画面サイズは、iPhone 7くらいが小さいほうになるでしょう。すでにiPhone SE(4インチ)のような小型サイズはかなり少なくなってます。
そしてSNSなどでシェアされて最もカジュアルに視聴される場合が縦画面、ちゃんと見たいと思われた時に横画面。さらにしっかり見たいならパソコン、というふうに、本気度に比例して視聴者の使用デバイスが変わるイメージ。
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いろいろ書きましたが、すでにシェアが最も多いスマホ視聴者が、これからさらに増えていくのは確実なので、スマホで見られることを前提として配信を考える必要があります。
配信ソフトで工夫して大きくする
これは全然自分に知識がないので、見たことがあるものだけで言ってます。
YouTubeなどで配信するソフトでは、画面の任意の場所をトリミング・複製・拡大できるので、選手がプレイしている画面と配信画面を別のものにできるはず。
例としてゲーム実況ですが、この麻雀動画では、点数の部分をトリミング・拡大・向き回転して、かなり小さな文字がスマホの縦画面でも見られるようになっています。
メリット
配信用に拡大して任意の位置に移動するだけなので、WeatherTyping側で何も変更しなくても良いかも。(開発コストが低くなる?)
プレイ画面と配信画面を別々にできるので、プレイしやすい画面と視聴しやすい画面を両立できる。
デメリット
小さい文字を拡大したらぼやける。
↓叩き台の画像を見ると、正誤率の部分がボヤケてるのが分かりますね。
まぁWeatherTyping側を変更するとしても文字サイズを変えれば良いだけならコストが安くつくかもしれないけど。
根本から変える
RTC2017 → 2018だけでもWeatherTypingがガラっと変わってるので、根本から変える予定とかあるのかもしれない。知らんけど。
↓こちらは薙刀式の大岡さんが提示した例から引用。特に獲得ワード数のバーが区切られてわかりやすくなってた。
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たぶん、WeatherTypingの改良は言われなくても鋭意取り組んでおられるんだと思う。
開発なんぞできない自分があれこれ言うのも無粋かな、と。
まとめ
重要な部分をもう一度。
- タイピングに関わりがない人にも見てもらうなら手元があったほうが良い→RTC2019で実現。ただし位置調整できないので手元がほとんど映らない選手がいた。
- 打鍵音用マイクがあればより競技タイピングの魅力が伝わる
- スマホの小さい画面で見られることを意識したレイアウト→RTC2019でWeather Typingの画面がかなり改善された
ってところでしょうか。
配信用のWeather Typing
追記です。
RTC 2019では配信画面がガラッと変わりました。
Weather Typingそのもののレイアウトが変わり、手元カメラが追加されました。
スマホで見るとフォントサイズがまだ小さくて読みにくいので、勝負で重要になる正確率はもっと大きくてもいいですが、一応95%を下回ると色がつくのでひと目でわかり、ワード取得数もバーが進んでいくのでだいたい把握できるようになり、プレイヤー側も視聴者側も勝負時がわかりやすくなりました。
手元カメラは、上記画像右側のように手前にキーボードを置く選手もいるので、位置を調整できると理想ですが、臨機応変にセッティングを変更するのは大変かもしれません。
でも、決勝戦を見ればわかりますが、
「最後のワードで94%、ミスせずに打ってゴールと同時に95%にすれば勝ち」
という状況がひと目でわかるので、ギリギリの緊張感が味わえて非常に見ごたえがありました。
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関連:タイピング手元動画まとめ