ロジクール M570というトラックボールマウスが故障してまともに動かないとのことで修理を頼まれたので、修理ついでに記録を残しておきます。(※当然、普通のマウスでも、分解さえできればこのページに書いてある方法でチャタリング修理できます)
M570ってチャタリングしやすいことで有名らしく、修理について調べたら以下のような方法があるようです。
- 保証期間内なら新品と交換
- スイッチ交換(はんだごてが必要)
- チャタリングキャンセラで騙し騙し使う
- 接点復活剤で修理(このページで解説します)
実際にやってみると分かりますが、接点復活剤でチャタリング修理するのはとても簡単です。はんだごてを使うスイッチボックス交換みたいに失敗する可能性も低め。
ということでこのページでは「M570分解 → 接点復活剤で修理」の手順を解説していきます。隠しネジの場所もわかるように写真をたくさん撮りました。
チャタリングはバッチリ直りました。
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※追記:修理の話とは別になりますが、ロジクールが7年ぶりに発売した新型トラックボール「MX ERGO」というのもあります。角度調節可能、バッテリー内蔵、質感の向上、そしてスイッチの耐久性を300万回から1000万回に改善。などの変更点があります。新しいのを試してみたいという人は参考にどうぞ。
追記終わり。M570のチャタリング修理に戻ります。
M570はチャタリングしやすいことで有名
M570がどのくらいチャタリングしやすいものなのか、試しにGoogleで検索すると「M570」と型番を入力するだけで、予測変換に「M570 チャタリング」と表示されます(笑)
他にも分解・修理・掃除などの修理関係のキーワードが多いので、なんとなくそういうマウスなんだな、というのは伝わってきますね・・・。
ロジクールはユーザーが非常に多いメーカーだから検索ボリュームも多いのが理由の一つだと思いますけど。
すごい人だと保証期間内に6回も故障・交換してしまった例もあるようです。
参考:トラックボールM570tがチャタリングで故障しない件 – BTOパソコン.jp
※上記タイトルは「故障しない件」となっていますが、6回目で交換した最初の後継機M570tは約半年で故障して、2台目が長持ちしているようです。これだけだと後継機M570tの耐久性はわからないので、今回の修理記事はあくまでM570について書いていきます。
M570は生産終了、M570tは後継機、SW-M570は短期保証
初代M570は生産終了で、後継機はM570t、そして新しく短期保証版のSW-M570が発売されました。
それぞれのメーカー保証期間は以下の通り。SW-M570は保証期間が短くなりました。
機種 | 保証期間 | 発売日 |
M570 | 3年 | 2010年9月 |
M570t | 3年 | 2013年7月 |
SW-M570 | 1年 | 2018年6月 |
どれも見た目がまっっったく一緒です。
スイッチの耐久性が変わっているのかが気になるところ。初代M570・後継機M570tどちらも相変わらずチャタリングが起きやすいことはすでに分かっていて、SW-M570はまだわかりません。
※SW-M750のレビューが365件溜まった段階で見てみたところ、チャタリングは特に改善されてないようです。レビューの星の割合も同じような分布になってます。あと、旧機種よりもボールの滑りが悪くなったという意見がいくつかありました。
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まず、自分が持っているトラックボールがチャタリングを起こしたら保証を確認して、まだ保証期間が残っているようならメーカー保証を使うのが最も確実です。分解したら保証が受けられなくなるので、まず最初に確認しましょう。
SW-M570の耐久性はまだ分かっていないので、新しく買うつもりなら販売価格と保証期間を考慮して、どの機種を買うのかよく考えたがほうが良いと思います。
修理を頼まれたM570の症状
さて、今回修理を頼まれたのは初代M570です。
調子が悪いM570を実際に使わせてもらって驚いたのが、チャタリングどころかほとんど左クリックが効かない(笑)
一生懸命クリックしても3回に1回くらいしか反応しないし、反応したらダブルクリック(チャタリング)になってしまうことがあったりで、全く使い物にならない。
Excelの範囲選択にも支障が出るレベルなんですけど、どうやらノートパソコンのクリックボタンと組み合わせて使ってたとのこと(笑)
M570の分解(カバーを外す)
いよいよ修理に取り掛かっていきます。
M570の裏面には隠しネジを含めて全部で5箇所のトルクスネジが使われています。
トルクスネジというのはちょっと特殊な形状のネジです。
↓こんな感じで六角形の星形をしているのがトルクスネジ。
このネジを開けるために特殊ドライバーセットを使用しました。
自分が使っているのがこのセット。
トルクスだけで10種類もあるので精密機器の分解はこのセットだけでほとんどできます。もちろんそのぶん安っぽいですが、分解することなんかほとんど無いという人には非常におすすめ。
別記事で「特殊ドライバーセットレビュー」も書きました。
他にも「特殊ドライバーセット」で検索すればたくさん種類があります。
M570のトルクスネジを外すにはT6の大きさのビットを使います。
パソコン関係ではT6とT8のトルクスネジを扱うことが多いので、単品のドライバーでもOKです。アネックスやベッセル製なら品質も良し。
※サイズが合うなら精密用のマイナスドライバーでも開けることができたというコメントもいただきました。自己責任でどうぞ。ネジ山を潰さないように気をつけて下さい。
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ソールの下にも隠しネジがあるので、ソールを剥がすために何かヘラのようなものでクイッと隙間に差し込んでペリペリと剥がします。そんなに粘着力が強くないので簡単に剥がれるはず。
次に隠しネジの中で一番わかりにくいのが電池の下にあるやつで、事前に調べてないとたぶんわかりません。
↓数字の5の真下あたりにネジが隠れてます。
↓すべての隠しネジを外した状態。
5箇所のトルクスネジを全部外せば、上下を持って引っ張るだけで簡単にカバーが外せます。
カバーを外す時、ボールを先に外してから、静かに外してください。
裏面の穴から押し出せばボールを外せます。
そしてカバーを外した時に、特に気をつけないといけないこととして、ボール受けが上にくっついてくることがあるので、静かに外す、ということです。
ボール受けを下にしておかないと、フィルム配線が引っ張られてしまうので気をつけてください。ボール受けは静かに押せば上フタから外れてくれます。
それと、せっかくカバーとボールを外したので、内部やボールの受け部分に溜まったホコリをエアダスターなどで掃除しときましょう。
M570のチャタリング修理
ここからが他のサイトのようにスイッチ交換するのとは違って、接点復活剤をスイッチに流し込んで接点洗浄して直します。
使用するのは呉工業のコンタクトスプレー。ゴムやプラスチックにかかっても大丈夫な接点復活剤です。
(ただしテレビリモコンなどで使われる導電性ゴムには使用しないでください。金属同士の接点なら心配いらないと思います。)
上の写真だと、赤枠で囲んだスイッチの隙間に流れ込めばOKなので、ティッシュで覆うなどして、飛び散らないようにして注意深くスプレーします。
スプレーしたら、つまようじなどで、スイッチを何回もカチカチして、中身の接点に復活剤が行き渡るようにしましょう。
(コンタクトスプレーはそこそこ浸透するので、いったん容器にスプレーして溜めてから、スポイトなどで滴下してもOKです。)
今まで何台かマウスを修理した経験から言うと、カチカチの回数が少ないと不十分だったことがあります。目安としては50回くらいはカチカチさせましょう。チャタリングの症状がひどければもっと。
これだけで修理完了です。
※あと、試しにスイッチの中に接点復活剤が残っている状態で使っても普通に使えました。たぶん蒸発するのが速くて水じゃないから乾燥させなくても大丈夫なんだと思いますが、気になる人は時間を置いてから通電させてください。
コンタクトスプレーの代用品
もし手元にコンタクトスプレーが無い場合に代用しないほうがいいもの、なんとか代用できるものをまとめました。
[?] クレ接点復活スプレー #1424
クレの接点復活剤にはもう一つ、黒い缶があり、これがマウスのスイッチに使っても大丈夫なのか気になる人が多いようなので書いておきます。
この#1424、公式サイトを見ると業務用シリーズとのことで、ゴム・プラスチックに使っても大丈夫かどうか書かれていません。また、実際に自分が持っている#1424の缶本体にも「金属以外に使用しないでください」としか書かれていません。
なぜかAmazonのレビューや質問では、中身が同じとか、ゴムやプラスチックにかかっても安心と書かれていることもありますが、ゴムが膨張したという書き込みも1件あるので、一応この記事では赤缶のコンタクトスプレーを推奨しています。(赤缶のほうは公式サイトや缶本体に「ゴムやプラスチックにかかっても安心です。」と明記されています。)
※過去のコメントやり取りで黒缶でも大丈夫そうだと書いたことがありましたが、今は#1424について「使っても大丈夫かよくわからない」という評価になります。
[×] クレ556・ラスペネなどの潤滑剤
※クレ556やラスペネなどの潤滑剤は使用しないでください。
プラスチックへの攻撃性が高く、マウススイッチのケースが割れる可能性があります。
↓KURE 556について公式サイトでは「金属以外のものに使わないで」と書かれています。
参考:5-56シリーズ | FAQ | 呉工業株式会社
↓こちらの実験ではラスペネの攻撃性が特に高いことがわかります。
参考:ケミカル用品比較実験
[×] クレ226防錆・接点復活剤
※クレ226は(マウスのチャタリング修理では)推奨しません。
用途はコンタクトスプレーと同様、接点復活剤となっていて性能にも定評がありますが、クレ226はゴム・プラスチックが劣化・変色する可能性があるため、プラスチック製のスイッチボックスに吹きかけるマウスチャタリング修理には適していません。
以下、公式FAQから引用。
Q.ゴム、プラスチック、樹脂への使用は可能でしょうか。
A.劣化や変色の恐れがあるため、金属以外のものへはお使いにならないでください。
引用:業務用メンテナンスシリーズ | FAQ | 呉工業株式会社
商品説明の用途を見ても、「電動機、発電機、制御装置」などが真っ先に書かれているため、日用品というよりは金属部分への業務用・整備用のほうが適当かなと思います。
[×] 燃料用アルコール
※燃料用アルコールは絶対に使用しないでください。

非常に有毒なメタノールが含まれていて危険なので、洗浄作業には絶対に使用しないでください。
(※今回の用途では危険なのでAmazonのリンクも外しています)
[△] 消毒用エタノール
※消毒用エタノールは使用しないでください。
無水エタノールと違い、消毒用エタノールには20%前後の水が含まれていて、乾燥してないうちに通電するとショートする可能性があります。
また、あまり見かける機会は少ないですが、「エタノール」は水が5%程度含まれるのでやはり適しません。
それぞれのエタノール濃度について公式サイトのQ&Aはこちら。
参考:無水エタノール、エタノール、消毒用エタノールの違いは?
「消毒用エタノール」・「エタノール」は、しっかり乾燥させれば使えないこともないと思いますが、わざわざチャタリング修理に使うには適していません。後述する無水エタノールのほうがマシだし、新しく買うならコンタクトスプレーのほうが良いです。
[?]パーツクリーナー・ブレーキクリーナー
パーツクリーナーは判断が難しい。基本的には金属用で、プラスチックへの攻撃性が高いものが多いです。
中にはプラスチックへの安全性を強調しているものもありますが、
家庭用の接点復活が目的なら洗浄+腐食防止効果があるコンタクトスプレーのほうが汎用性があります。
少なくともゴム・プラスチックへの安全性について書かれていないものや、遅乾性のものは使わないようにしましょう。また、条件を満たしていても責任は持てません。
[◯] 無水エタノール・エレクトロニッククリーナー
※無水エタノール、エレクトロニッククリーナーなら一応チャタリングの修理に使えます。
これらは接点の洗浄だけならできて、水が含まれないのでショートの心配もなく、チャタリングの修理なら一応使えます。
ただし、コンタクトスプレーなら洗浄+腐食防止の効果もあるので、マウスのチャタリング修理なら、やはりコンタクトスプレーのほうがおすすめです。
ネジを元に戻す時の注意点
M570の修理が完了して元の状態にネジ止めする時は、以下の写真のとおり、電池ボックス内のネジを一番最初に戻すことを推奨します。
↓コメントから引用させてもらいました。
誤ってマイナスマーク側の穴にネジを落としてしまうと
そのネジ回収のためカバーを再度外すことになってしまいますので…。
他の4箇所を締めた後にこの失敗に陥ってしまい、
再度全てのネジを外し直す羽目になってしまいました。^^;
なので、ネジを元に戻す時は、電池ボックスのところをネジ止めして、電池ボックスの蓋をしてから(隙間にネジが落ちないようにしてから)、他の4箇所のネジを元に戻す手順がおすすめです。
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もしくは、どうせトラックボールは本体を動かすことがないので、電池ボックスのネジ以外は使わないのも一つの方法です。これなら次回分解する時にゴム足を外す必要がなく、分解が簡単になります。
クリック不良やチャタリングの症状が劇的に改善
さて、今回修理を依頼されたM570は、コンタクトスプレーで修理した結果、どんなに頑張っても反応しなかった左クリックは確実に反応するようになり、チャタリングも一切起こらなくなりました。
ほんと接点復活剤(コンタクトスプレー)で劇的に症状が改善するので、わざわざハンダゴテまで使ってスイッチボックスを交換する必要はないと思うんですけどね。
なぜかM570の修理について検索したらスイッチ交換についての情報が結構あるので、意外とみんな接点復活剤で直せることを知らないだけなんじゃないかと思います。
一応自分が以前にコンタクトスプレーで修理したマウスを経過観察してますけど、3年近く経ってもチャタリング再発しないし、この記事のコメントにも修理できた報告が数十件あります。
何はともあれ、マウスのクリックの調子が悪いという人、マウスを分解さえできればチャタリングの修理は簡単にできるので、保証期間の切れたM570がチャタリングしたらダメ元でどうぞ。
ちなみにAmazonの通常会員は2000円未満だと送料がかかってしまいますが、プライム会員だと送料無料になります。
小物を買う時はプライム会員(30日間無料体験あり)、学生ならAmazon Student(6ヶ月間無料体験あり)だと金額に関わらず送料無料になるので、ちょこちょこ買物する人にはおすすめです。コンタクトスプレーとか単品で買うつもりの人は先に会員になってからお買い物をどうぞ。
新型トラックボール「MX ERGO」
ロジクールが7年ぶりに発売する新型トラックボール「MX ERGO」という上位機種もあります。フラッグシップモデルのMXシリーズらしく、角度調節可能、バッテリー内蔵、そしてスイッチの耐久性を300万回から1000万回に改善。などの機能追加、質感の向上がされています。
↓こちらはMX ERGOの特徴をざっと説明した動画。とくに左右の角度調節は動画で見るとわかりやすいです。M570に飽きて、新しいのを試してみたいという人は参考にどうぞ。
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↓その他、他のマウスやiPhoneのライトニング端子を掃除・修理した時の話もブログに書いているのでどうぞ。
完全に復活しました。ドライバーセットなど購入しましたが、部品交換よりも簡単で確実なようです。
有り難うございました。