初心者はローマ字入力とかな入力どっちがいいのかという記事に親指シフトのことも少し書いてたんですけど、加筆修正を繰り返すうちにボリュームがどんどん大きくなってしまったので、記事として独立させることにしました。
調べていくうちに、親指シフト愛用者はメリットを強調することが多いんだけど実際のところ習得を断念している人がいたり、根拠が薄いものが結構あるんじゃないの?と思うことがあったので、
「これから親指シフトを練習しようか迷っている人」や「親指シフトを普及させたいと思っている人」にも参考になるんじゃないかと思って、メモしていきました。
※ただし、自分自身はローマ字入力の熟練者で、JISかな入力が一応打てる程度。親指シフトは調べることはあっても自分でやったことはない、という立場です。
なので、親指シフト経験者じゃないとわからないことについては不完全だと思います。JISかなも、チャンク化や先読みできるレベルにまで達していません。
その分、参考サイトや論文のPDFなどにリンクを貼っているので、発言の根拠は外部サイトにまかせている部分もあります。
また、親指シフトに利用されているキーボードの中で実績のあるものを一覧にしたりしています。
親指シフターの方が見たら突っ込みどころがあると思いますけど、むしろその食い違いが一般の人が導入に踏み切れない壁だったりするんじゃないの?と思ったりしてます。
親指シフトの入力速度について
親指シフトの入力速度については、YouTubeでちょっと検索するだけでも漢字変換込み123文字/分が無理なく打てている動画が見つかるので、とりあえず配列としての問題は無さそうです。
↓親指シフト派生の「飛鳥配列」で、タイプウェル34.5秒という、かなり速い打鍵動画もあります。ただし投稿者さんはローマ字入力で同時期に26.4秒(約15打/秒)を出してしまうような上位タイパーなので、”普通の人”にはできないレベルです。あくまで可能性として。
↓こちらは親指シフト派生配列の「かえであすか」で、変換込みの文章を入力するところ。ニコニコ動画のコメントではツッコミされてますが、変換込み120~130文字/分くらいなので十分な速度です。
↓こちらは飛鳥配列を改造したらしい、ひろ!!(@hirobikkuri2)さんによるタイプウェル53秒の動画。このくらいのスピードなら、実用入力でとても快適になりそうです。
そんな速くないけど、指が頑張ってない感が伝わるだろか。ローマ字で同じタイム出そうとすると何かもっとうるさい。そして50秒切りが遠い。 #親指シフト pic.twitter.com/owwsJrFCtN
— ひろ!! (@hirobikkuri2) July 28, 2018
↓こちらは手元だけで、どの親指シフトを使っているのか詳細がわかりませんが、タイプウェル44秒くらいの打鍵動画。
(他にもいくつかありますが、手元がわかる動画のみ引用しました。)
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このように十分な速度を出すことは可能ですが、シフト同時打鍵が多い親指シフト(特にNICOLA系)は速くなるほど難易度が上がるので、「ローマ字入力は親指シフトの1.7倍の打鍵数!」というふうに、打鍵数だけで比較するのは適当とは言えません。
しかも1.7倍というのは親指の打鍵数を無視しているので、正確に言うと「動作回数」は1.7倍になりますが、「総打数」は1.2倍程度にしかなりません。(後述)。
ローマ字入力は和文を入力するのは全て単キー打鍵なので、スピードが速くなってもそのまま入力間隔を短くしていけますが、親指シフト(特にNICOLA)はシフトキーを連打(同指同キー打鍵)するスピードに限界があることと、押す時と押さない時の繋ぎに、テクニックと仕様(判定のミリ秒調節)の限界があります。
つまり、親指シフトは高速になるほど難しくなるので、速度が遅いうちは親指シフトのほうが動作数が少ないことによる恩恵を受けやすいですが、高速になるほどローマ字入力のほうが単キー打鍵による恩恵を受けやすくなります。
その意味でNICOLA公式サイトに掲載されている入力比較アニメーションは、「動作数」だけ同じにして、親指の打鍵コスト(押す・離す判定のコスト)を無視して比較しているので、実態を表していません。このアニメーションの速度だと、ローマ字入力のほうがかなり難易度が低くなります。
親指シフトを年単位で練習した経過
じゃぁ実際に親指シフトをある程度長期間練習した方について検索したのでピックアップしてみます。
効率的と言われる親指シフト入力は「アリ」か「ナシ」か(Creative89)では、親指シフトを練習し始めてから2年半の時点。ローマ字入力・かな入力・親指シフトのメリット・デメリットについてまとめたあと、どのような人に親指シフトがおすすめなのか、割と理論的・客観的に書かれています。特に、親指シフトを快適に使用するための環境を整えるのが大変で、記事中ではエミュレータがOSバージョンアップによって使えなくなった不具合について体験談を見ることができます。
親指シフトレポート(近況報告の歌)では、2年2ヶ月までの間に、どのような苦労があったのか、かなり具体的に参考になります。もともとローマ字入力がかなり速いようで、この時点でもローマ字入力に戻そうか葛藤があるのがわかります(その後親指シフトをやめたか使用頻度が減った?)。事例は、速度が速くなると誤反応が増える(エミュレータの設定で解決したが、自力で解決が難しい時に情報が得られにくい)。左手首に負担を感じる。今さらロマかなに戻すのも難しいのではという葛藤。ノートPC選びで選択肢がとても少ない。親指シフトの速い動画を探しても無い。速くなれるか不安なので動画で実証してほしい。同時押しとはいえ2箇所の負担はかかっている。ローマ字でも、勝手に指が動くので綴りに変換するプロセスは不要。などなど。親指シフトについて書かれた記事一覧でだいたい見れます。
親指シフトでタイピング速度自己最高記録を塗り替えるまでの道のり(フリーランスエンジニア実体験ブログ)では、親指シフトを始めてから4年後の時点での感想が分かりやすく書かれています。意外と気づきにくい「同時打鍵」のタイミング、PC買い替えに伴うキーボードの不満、高価なキーボードに手が届きにくい故の押下圧が重めのキーボードなど、親指シフトを導入する時に起きやすそうな問題が、実体験を元に書かれています。動画もあるので、習得後の姿を想像できるのが良いところ。タイプウェル68.8秒なので実用的なレベルに到達できたようです。
親指シフトを始めてから3年間でローマ字入力の1.5倍のスピードで打てるようになりました。(Uruoi Style)では、ローマ字入力10年(変換込み800~1000文字/10分)から親指シフト3年の時点で変換込み1300~1500文字/分に伸びたという具体的な成果が書かれています。親指シフトで成果が上がった理想的なパターンかもしれません。ただし濁点のミスが多いとのこと。シフト同時打鍵なので速度が速いと難しくなるのに加えて、濁点は誤入力しても気づきにくいのが困った点。
3年ぶりに「寿司打」リベンジ。タイピングゲームで親指シフトの上達を比較(NMRevolution.blog)では、親指シフトに切り替えてから3年半後に寿司打で計測した結果が書かれています。スコアが少し更新されてはいますが、3年半だとタイピングの技量自体が上昇したとも言えるので、親指シフトによるものなのかはちょっと判断できないかも。
指が勝手にしゃべる感覚!? 親指シフト3年目の、タイピング速度・変化の感想(ミニマムライフ研究所)は、冒頭でも紹介した動画の方です。3年目で変換込み123文字/分。ローマ字入力は頭の中が消耗する感じがして嫌になってくるとのこと。キーボードの遍歴も記事にまとめられていて、コメント欄でも意見交換されています。
親指シフトに切り替えてちょうど1年!ついに100文字/分を達成!成長の過程や入力ビデオを公開!(ひとぅブログ)では、ローマ字入力16年(変換込み100文字/分)から、親指シフト1年で同等の100文字/分に到達したとのこと。動画もあります。その後も練習経過が記録されていて、約1年半の時点で130文字/分程度になっているようです。
親指シフトを1年くらい使ってみて感じた良い所・悪い所(煩悩退散!)では、タイピングの成績は書かれていませんが、1年経った時点の感想がまとめられています。気になったのは、ローマ字入力を驚くほど忘れてしまったとのこと。また、濁点の間違いに気づきにくいこととエミュレータの不具合についても書かれています。
【ラクで爆速】親指シフト入力を習得するメリットを俺なりに書いてみる。(My Favorite, Addict and Rhetoric Lovers Only)では、親指シフト開始5ヶ月時点でe-typing(ローマ字換算)200WPM以上、ローマ字入力時代は300WPMを少し下回るくらいという情報が参考になる。
そこから3年後にローマ字入力換算400WPMまで速くなったみたいなので、仕事で親指シフトをメインに使ったケースとして参考になりそうです。
ぼくは親指シフト入力を駆使することで、400WPM(ローマ字入力換算で分速400打鍵)という圧倒的な速度で打てます。
誰も追いつけない爆速Slackを打てます。が、2年ほどの会社員生活で気づいたのは、オフィスワークはローマ字入力の方が向いてる。。文章と文書はちがう。。
— ファーさん/ヨウ (@yohkiritani) September 18, 2019
また、「思っていた以上にローマ字変換するために脳内メモリを食われていた」ことについて細かく書かれています。この感覚については、他の親指シフターでもよく見かけますね。
親指シフト打鍵動画を見たい
これたぶん親指シフトを始めようか迷ってる人が感じてることだと思うんですけど、親指シフトを極めた人の打鍵動画を見てみたいと思うんですよね。
↓先述の記事から引用。
※親指シフトに興味を持ち始めた頃、「どれくらいスピードが速くなるんだろう?」とYouTubeを探したんですが、あまり良い動画がなかったんですよね。「うおぇぉぉ!速ええェェ!」って思って貰えるような動画が撮りたかったんですが、全然そんな感じになりませんでした。トホホ。なにしろタイプウェル国語KでSGレベルなので、全然大したことなくて、速い人には鼻で笑われてしまいます。
誰か「こんなに速く打てるようになるなら、俺もやってみるっ」て思えるような動画アップして下さいm(_ _;)m
親指シフト愛用者が「速く打つことが全てじゃない」と言うのはごもっともなんですが、生産性を上げたいと思って親指シフトを検討してる人にとっては、とりあえず理想の姿を見てみたくなるんですよ。
「打鍵数が少ない!親指シフトバンザイ!」って言われても響かなくて、実際どんな感じになるのか見てみたい。
できればタイプウェルなどのソフトだけじゃなく、漢字変換込みの和文(親指シフト用に作られた例題文じゃなく)で初見の文章を、英数字記号も含めてどんな感じの入力感覚になるのか見てみたい。
つまり、日常生活や仕事でバリバリ使えるようになった時のイメージを掴みたい。
ローマ字入力は人口が多いので打鍵動画もそれなりに転がって(自分も和文入力の動画を公開して)いますが、親指シフトはユーザーが少ないので当然動画の数も少なくて、その中でもローマ字入力のタイパーに匹敵するような親指シフトの打鍵動画がわずかしかないので、イメージしにくいのが難点の一つです。
親指シフトを練習しようか迷っている人にとって、「果たして親指シフトに時間を投資して無駄にならないのか?」というのは非常に気になるところなので、ハードルを超えた先の世界がどうなってるのか、動画で見れることは重要だと思います。
トップレベルの親指シフターが圧倒的な速度の動画をアップすれば、親指シフトの普及にも貢献できると思うので、手元と画面付きの打鍵動画をアップしてほしいです。
憧れの対象になる存在が居ると、練習し始めの人にとっては不安が少なくなり、モチベーションが上がるので良いこと尽くめです。
YouTubeとニコニコ動画を探す限り、驚くほど速いのは最初のほうで紹介したtomoemonさんの飛鳥配列動画しか見当たらないし、もともとローマ字入力で異常なほど速いタイパーさんなので、まだまだ参考になる事例が少ない印象です。
また、親指シフトで利用者が最も多いNICOLAで爆速な動画がありません。この動画が無いために「親指シフトって本当に速いの?」と疑問を持たれる場面をたまに見かけます。
これだけ探しても速い動画が無いということは、「NICOLAが高速打鍵に向いていない」という可能性があるんじゃないでしょうか。
実際、上記tomoemonさんが「飛鳥配列21-290でTWJK総合XA達成!!」という記事で、NICOLAをやらずに飛鳥配列を選んだ理由として「連続シフトができるかどうか」が非常に重要な判断基準になっていて、押さえっぱなしのシフトができないNICOLAでは高速打鍵で明らかに不利になることがわかります。また、どちらにしても「親指でシフトを押すことによるコスト」が高速になるほど大きくなることについても言及されています。
これらを考慮すると、とにかく高速入力がしたくてローマ字入力からの乗り換えを検討している人は、NICOLA以外の配列も選択肢に入れておいたほうが良いと思います。また、そもそも超超高速域では親指でのシフト打鍵自体のコストが増えていくことを理解しておきましょう。
※ちなみにTwitter動画だと検索からはほぼ見つけてもらえません。ニコニコ動画にアップされている親指シフト動画はいくつかありますが、YouTubeと比べると発見されにくくなります。動画をアップするならぜひYouTubeへの投稿を検討してください。
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勝間和代さんが親指シフトの速度を計測したらしく、「変換込みで約200文字前後/分」という、かなり速いスピードだったので驚きました。どんな指の動きになるのか動画で見てみたい。
結論から言うと、短い時間では意外と違いませんでした。親指シフトが漢字かな交じり全角で毎分約200文字前後、音声入力が毎分300文字ちょっとです。
引用:ちゃんと測ってみたら、意外と音声入力と親指シフト、スピード変わらなかった。ただ、持久力が違う 勝間和代オフィシャルサイト
※その後、ばね指の手術などがあったので、音声入力について精力的に模索しているようです。結局文章などをアウトプットできれば良いので、固執せずに新しいものを取り入れる姿勢のほうが重要とも言えるかもしれません。
ワープロ検定上位独占?
ちなみにNICOLA公式サイトにはワープロ検定合格率 No.1と題して、OASYSシリーズが上位を独占したと書いてありますが、詳しいことが書かれていません。
果たして「親指シフトが配列として優れているから」なのか、いろいろ調べていくと疑問点が出てきました。
まず上位独占した大会について引用しておきます。
1983年から4年続けて行われた日本オフィスオートメーション協会と日本能率 協会共催によるワープロコンテストでは、4年連続で金賞を独占、また銀賞、銅賞も 過半数を占めた。
当時の親指シフトシェア
当時コンテストが行われる2年前にシェア1位になっているので、単純にシェアの多さに比例しただけの可能性。
シェア動向調査(日経100品目調査)では、1981年に首位となり、NICO LA配列キーボード(親指シフトキーボード)がワープロユーザー間に定着した。
速記者のNICOLA使用率が高い
さらにその下にある使用中のキーボードのアンケートでは、速記者のNICOLA使用率が高いので、金賞の独占に影響している可能性。
日本電子工業振興協会の「日本語入力方式技術に関する調査研究報告書」によると 速記者ではNICOLA配列キーボードが多いのに対し、学生ではJIS配列キーボ ードの使用者が圧倒的である。
当時の入力速度は遅い
また、当時の入力速度は(別の大会ですが)1982年に「ワープロコンテスト82」で、参加者150名、募集要項によると使用機種は全てMy OASYSで、こちらのスレによると親指シフトキーボードのみ接続できるようです。つまり参加者全員親指シフトで、優勝者が漢字かな交じり文で892文字/10分という結果になります。
これと比べて現在全国で開かれているような大会は、例えば「全国高等学校ワープロ競技大会」「全国パソコン技能競技大会」などの、主に高校生が出場する大会があり、
- 2016年のワープロ競技大会では優勝者が2386点/10分、出場選手215名の平均純字数が1535文字/10分。大会の様子は2014年のこちらのブログがわかりやすい。
- 2013年全国パソコン技能競技大会では優勝者が2389文字/10分(ノーミス)
などのソースがあるので、大会のレベル自体が今と昔でかなり違います。(ちなみにワープロ競技大会は平成21年度からJIS規格以外のキーボードが認められなくなったそうです。また、上記大会で使われる問題文はすべて初見の文章で、漢字仮名交じり文の文字数です。)
この数字だけだと「当時は親指シフトが上位を独占していても入力速度は全然大したことない」と見えるかもしれませんがそれも違います。大きく違うのは、ワープロを取り巻く環境の違いなんじゃないでしょうか。
1982年当時は「低価格を実現」と言われたMy OASYSでさえ75万円という、一般層が購入する値段ではありませんでした。その後年々低価格・小型化が進んでいくので、
1981年8月 – OASYS100Jを発売。小型軽量化、低価格化(159万円)を実現。
1982年5月 – My OASYSを発売。小型軽量化、低価格化(75万円)を実現。
1983年4月 – My OASYS 2を発売。低価格化(48万円)を実現。
1984年5月 – OASYS Liteを発売。小型軽量化、低価格化(22万円)を実現。その他、こちらのOASYSリストで細かい発売順がわかります。
ワープロコンテスト82が開催された1982年の時点では競技人口が非常に少なかったと考えられます。また、当時IMEの漢字変換の性能は低いだろうから、これもコンテストの成績に影響を与えている可能性があります。
つまり、まだワープロが普及し始めた時期(一部の人しか使用していなかった時期)の話を持ち出して「親指シフトは優れている」と言うのは、もはや時代遅れとさえ思います。
後述しますが、親指シフトは入力スピードが速くなるほどシフト操作が難しくなるので、まだ全体の入力速度が遅かった時代は当然親指シフトのほうが有利な状況だったと言えます。
以上のように、
- シェアの多さに比例している
- 当時の速記者にNICOLA使用者が多い
- 当時の大会のレベルが今より低かった
などの可能性が捨てきれず、NICOLAが配列として優れているという説得力に欠けます。
上記比較アニメーションやワープロ検定上位独占のことなど、NICOLA公式サイトは作為的に良く見せようとする部分が垣間見えるので、書いてあることを鵜呑みにできません。
ローマ字入力でも脳内メモリ食わない説
ローマ字入力でもかなり上達すると1音を2打で打っている感覚ではなくなって気持ちよさを味わえますが、自分の経験では日本語ワープロ検定1級(変換込み700文字/10分)程度だとまだまだで、2倍(1400文字/10分)くらいでしょうか。
タイピングゲームだとe-typing腕試しで400点以上?タイプウェルで50秒以下?
(ここらへんの予想は曖昧です。ちなみに自分は練習ソフトの記録狙いではなく普段パソコンを使う時でe-typingのWPM450前後、タイプウェル45秒くらいのスピードで打ちます)
ローマ字入力が上達すると「か」=[k]ケー[a]エーではなく、「か」=[ka]というふうに、頭の中では「か」の発音で[ka]が一瞬で入力されるようになりますが、さらに上達すると頭の中で発音というよりは「キーボードが発音する」みたいな状態になって、「ロールオーバー打ち」で1打目が離れないうちに2打目を打ち、手前の打鍵が残ったまま打鍵、つまり同時打鍵のようになっていきます。これは別に同時打鍵を意識しているわけではなく、入力速度が上がれば自然とそうなるとも言えます。
kケーaエー 2打で「か」に脳内変換するのではなく、
kaという指の動きが「か」になる意識。
脳内変換が邪魔になるというのは、「脳内変換しているから邪魔になる」ということでもあります。楽器と同じで、指の動きと出力文字を対応させたら脳内変換は発生しません。変換ではなく、イコールで出力されます。
「複数のボタンがひとつの出力に対応している」ものとしては楽器が良い例で、例えばトランペットは3つのピストンの組み合わせと吹く強さによって音程を変えます。
ローマ字入力のロールオーバー打ちは最終的に同時押しに近い感覚になるので、ボタンが2個だろうが3個だろうが、ワンアクションで1つの出力に対応するようになります。
1個ずつ打鍵する段階では味わえませんが、例えば「syo」だと、ほとんど同時に打鍵して、ワンアクションで「しょ」が出力されます。
↓例えばこれは自分の打鍵動画なんですが、再生後に歯車マークから再生速度を0.25倍にして観察してみてください。
この動画では打鍵音のために普段よりゆっくりタイピングしていますが、sadararetejiniなどの子音→母音の組み合わせや、
~ou~iuyuなどの拗音や母音の連続が絡んでくる打鍵など、無理しなくてもできる部分では自然とロールオーバー打ちになっています。
ロールオーバー打ちは親指シフトのように「シフトキーを押しているか離しているか」という状態に気を使う必要がなく、1打鍵あたりの「押す→離す」の動作には余裕があるため、見た目の運動量とは裏腹に疲れやすくはありません。
思考の速度に指の運動が追いつけば、最終的には頭の中で発音するのではなく、「キーボードが発音している」ような感覚になります。
結局「頭の中で変換している」段階では、それをキーボードに入力する命令を出す負荷がかかっています。
「頭の中で発音してからキー入力の命令をする」のと「キー入力=出力」との間には大きな隔たりがあり、この習熟レベルが上がると、ローマ字入力でも脳内メモリを食われることがなく、気持ちよく打てます。
なので、ローマ字入力でやり尽くすところまで行っていないのなら、親指シフトで初期の頃からメリットを感じやすいのかもしれません。
逆に、ローマ字入力で上記のような感覚まで掴めている上級者の場合は、親指シフトにするメリットがほとんど無いんじゃないでしょうか。
親指シフト打鍵のコスト
tomoemonさんのブログでは、飛鳥カナ配列を使って、「飛鳥配列21-290でTWJK総合XA達成!!」という記事で、高速打鍵は可能なことや、速くなるほど親指キーの押下コストは増加していくことについて言及されています。
tomoemonさん自身がゴリゴリの競技タイパーなのでとても興味深く、高速域での親指キーのコストについてここまで突き詰めて実感できる人は日本中を探してもほぼいないでしょう。
下記の記録を見るとタイプウェル33.7秒で、その時点で感じる親指のコストについて、ブログを読むととても参考になります。
@shrimp_car もし親指シフト系である飛鳥ではなく月配列とかを使っていたら、そのままカナ系だったかもしれないですね。ひとしきり満足するまで飛鳥を打ってみて、最終的にさらなるスピードを求めるのは難しそうというのが結論でした https://t.co/txxhwCGnJ0
— tomoemon (@tomoemon) March 12, 2016
記事の中では以下のようなことが書かれています。
- なぜNICOLAではなく飛鳥配列なのか(連続シフトの存在が大きい)
- さらなるレベルアップはシフトによるコストの影響が極めて大きくなるので難しいかも。未知数。
- シフトのコストは速くなるほど大きくなる
- 高速打鍵を目的とするならキーの入れ替えはデメリットもあるので、バージョンは変えない
「飛鳥配列でタイプウェル打ってみた動画作ったよ」という記事ではタイプウェル34.5秒の動画も見れます。
ーーー
※この記事を書くために親指シフトについて検索していると「飛鳥カナ配列」と「かえであすか(飛鳥カナ配列からの派生)」は、親指シフト専用キーボードじゃなくても打ちやすい点と、押しっぱなしシフト(連続シフト)打鍵でも使える点で、NICOLAよりも配列としての評価が高そうでした。
特に、手持ちの普通のJISキーボードを使うなら飛鳥系列のほうがおすすめのようです。
親指シフトの導入・習得について
親指シフトの導入に必要なのは、主に以下の3つの要素が必要になります。
- キーボード
- 配列
- エミュレータ
特にキーボードと配列に関しては、どれを選ぶかによって疲れやすさや難易度が変わってくるので、一通り目を通しておきましょう。
キーボード
親指シフトに使う場合は、親指キーの分割位置と押下圧によって使いやすさが違ってきます。
下記の写真のように、N割れ(Nキーがスペースと変換の境目)だと、NICOLAで打鍵がきつくなることがあります。
※ただし割れ位置は、NICOLA以外の配列を使用するなら問題にならない場合もあるので、「絶対にB割れのほうが良い」というものではありません。
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そして、同時打鍵を多用する親指シフトは軽い押下圧が推奨されています。
純正キーボードの押下圧が35gなので、ほとんどの一般的なキーボードは押下圧が重たいということを理解しておきましょう。
以下の一覧では親指シフターが使っている実績があるキーボードを例に挙げ、「親指シフトキーがどの位置で左右分割されているのか」と「押下圧」を記載しています。
割れ位置は、スペースキーの右側がどのアルファベットの位置になっているかで見ます。
↓以下の画像だと、JISキーボードで採用されていることが多い「N割れ右寄り」です。
また、右シフトとして使う変換キーの大きさも重要なので、純正以外の代用キーボードについては、キーの何倍にあたる大きさなのかも表記しておきます。(1キーの大きさは 1u という単位で、0.25きざみなので、変換キーは主に1u・1.25u・1.5uの3種類があります。)
↓親指シフトで使われることがあるキーボードのリストアップ。
- 富士通純正 FMV-KB232(B中・35g)(専門店)
- 富士通純正 FMV-KB613(B中・35g)(専門店・Amazon)
- 富士通純正 Thumb Touch FKB7628-801(B中・55g)(専門店・Amazon)
- ライフラボ 親指シフトキーボード (N左・40g・1.25U) (レビュー) (Amazon)(動画・動画)
- オウルテック 赤軸(N左・45g・1.5U)(レビュー)
- Realforce(N右・30g/45g・1.5U)
- HHKB Pro(N右・45g・1U)
- エスリル ニューキーボード − NISSE(分離・35g/45g)(レビュー)
- MiSTEL BAROCCO MD600 (分離・45g)(レビュー)
- Kinesis Freestyle Edge / Pro(分離・45g)(レビュー)
- DELL(L100 / SK-8115) (BN・60g?・1.25U)(レビュー・軽量化)
- BUFFALO BSKBC02BK(N左・52g・※スペースキー62g・1.25U)(レビュー)
- BUFFALO BSKBCG305BK(N左・押下圧不明・1.25U)上記の後継機種でたぶん仕様が同じ(動画)
- 「2019年4月現在の親指シフト向けキーボードを探す – ゲーム以外の雑記(井上明人)」という記事では、かなりの数がリストアップされていて、実際に購入して試したものもいくつかあるようなので、とても参考になると思います。
こうして見てみると、あまりネットでは実践例を見かけないけど、市販のキーボードはオウルテック赤軸が、割れ位置・押下圧・右シフトの大きさ・スイッチ特性(メカニカル赤軸)・値段いずれも条件が良さそうで、使用実績にも定評があります。
HHKB Proはブログなどで取り上げられることが多いですが、右シフトが1Uとかなり小さいので、実際に打ちやすいのかどうかちょっと疑問。
ってところでしょうか。
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もちろん自作キーボードならいくらでも自由にできますが、それはそれで別のハードルを超える必要があるのでここでは言及しません。
配列
どのキーを打つとどの文字が出力されるのか、キー配列を選ぶ必要があります。
知名度はNICOLAが最もありますがデメリットもあるので、どの配列を選ぶのかは意外と大事。
特に気をつけたほうが良い点として、NICOLAは中心付近の打鍵がそこそこあるので、親指シフトの割れ位置がN割れだと使いにくいという意見があります。
その場合は右手側を1列ずらすorzレイアウトや、中心付近をほとんど打鍵しない飛鳥カナ配列などが良いこともあるでしょう。
また、余談になりますが、そもそもキー配列とエミュレータをカスタマイズするなら、親指シフト系ではない他の配列も選択肢に入ってきます。
記事後半で紹介している「その他のキーボード配列」も読んでみてください。
エミュレータ
パソコンで最初から使えるのはJIS規格である「ローマ字入力」と「JISかな入力」しかないので、親指シフトを使うならキーの出力を変換する「エミュレータ」と呼ばれるソフトやかえうちなどのデバイスが必要になります。
- やまぶき・やまぶきR
- DvorakJ
- Japanist (Amazon)
- Q’s Nicolatter 8
- Benizara(紅皿)
- 姫踊子草
- Lacaille (Mac)
- Karabiner (Mac)
- その他NICOLA公式に網羅
- 配列変換アダプター「かえうち」(動画) (スマホ・タブレット可)
なお、ソフトウェアとして動作するエミュレータ共通の注意点として、「OS更新やChromeバージョンアップで使えなくなる」「ウィルス対策ソフトに驚異と判定される」「IMEとの相性が悪い」などの問題を見かけたことがあります。
いざ致命的なバグが出たとき、バージョンアップされる見込みがなければ、他のエミュレータに乗り換えを余儀なくされることを想定しておきましょう。
親指シフト体験談
その他、親指シフトをしばらく使ってみて感じたことなどを書いてあるブログを紹介しておきます。
親指シフトはじめました→3日でやめました! 親指シフトの不便なところ6つ。(黒井さんはひとりじょうず)では、3日でやめたので練習量は少ないだろうけど、最初に感じた不便な点がわかりやすくまとめられています。時間をかければ解決できるけど、その“面倒くささ”がハードルになって断念した事例として参考になります。後半では「かえうち」からのコメント(解決策)が掲載されているので、ケーススタディとしても役に立つと思います。また、配列やエミュレータの作者にとっては、ユーザーがどの部分でつまずくのか参考にできると思います。
『親指シフト導入記』(東京の空の下より)では、筆者自身が完全な初心者の時点から、親指シフトの導入や練習について体験を交えて非常に分かりやすく事細かに書かれています。また、親指シフトの習熟に伴って、昔のやり方が全然ダメだったことに気づいたりしています。
普通のキーボードで親指シフトする(Weblog 61℃)という記事の中にある「キー別打鍵頻度グラフ」によると、NICOLAはキーボード中央付近をそれなりに打鍵するのに対して、飛鳥系列はほとんど中央付近の打鍵がありません。また、orzレイアウトはNICOLAの右手ホームポジションを右にずらして、中央付近のきつい打鍵を回避します。
親指シフトとキーボード(Teatime Talk)では、2014年に親指シフトを導入したらしく、4~5年経った時点か。使用キーボード、親指シフトにした経緯、orz配列とキーボードの相性、NICOLAのデメリット、独自配列を試行錯誤する様子など、実際に使っているからこそわかる考察が、非常に参考になると思います。
親指シフトを9ヶ月続けてみたら「便利でお得」にはならないニッチだとわかった(ひろしま代書屋日記)では、JISかなからローマ字への転換と、ローマ字から親指シフトへの転換が、体感でどのように違ったのか。ノートパソコンで選択肢が少なくなること。コストとリスクが増えることなどが書かれています。
親指シフトの練習ソフト・サイト
親指シフトの練習ができる専用のサイトや、漢字変換込みで入力するソフトなどがあるので、エミュレータの設定を細かくしなくても、とりあえず練習できる環境はあります。
また、ローマ字入力として出力されるエミュレータであれば、寿司打などのローマ字入力しか受け付けない練習サイトも使えるので、そんなに心配する必要もありません。
親指タイピング
⇒ 親指タイピング
エミュレータ環境が無くても親指シフトの練習ができるという、画期的なサイトです。
今までエミュレータのインストール・設定が面倒で敬遠していた人にとって、とりあえず親指シフトの体験ができるというのがポイント。
公式サイトの「動作環境」に、かなり細かくOSやブラウザごとの注意点が書かれているので、やる人はとりあえず確認しましょう。
もちろん、親指シフトの感覚がつかめて、いけそうだと思ったらエミュレータを使うこと推奨ですが、その手前の段階として意義のあるサイトだと思います。
2017年7月にリリースされてからちょこちょこ更新されているようなので、詳しくは上記サイトにアクセスしてお確かめください。
タイプウェルFT
⇒ タイプウェルFT
親指シフトを練習する人にとって定番のソフト。
漢字変換込みの文章を入力していくので、エミュレータと練習ソフトの相性をあまり気にする必要がなく、実用的な練習がしやすいのが特徴です。
問題文は最初からある程度収録されていますが、自分で登録することもできます。ネット上のニュースなどをコピペすればいいので簡単。
タイプウェルFTを使わず、NICOLA派宣言をメモ帳に入力するというのがありますが、メモ帳だと成績管理しにくいので惰性になってしまいます。
その点、タイプウェルFTは成績管理の機能がとても充実しているので、昔と比べてどのくらい成長したのか実感しやすく、モチベーションアップに繋がります。「1分あたりの入力文字数」や「ワープロ検定に換算した評価」なども表示されます。
他には毎日新聞の余録・社説など、ネット上のテキストを練習材料にする場合は余録変換ツールや、全角半角 変換ツールなどのサイトで改行の追加や全角・半角の統一をすると使いやすくなります。
ただ、個人的にはNICOLA派宣言のような基本中の基本はやっても損は無いと思いますが、社説などは普段使わない漢字が多く、変換の癖も違ってくるので、競技タイピングのために初見の文章や漢字にも強くなる必要がある人くらいしかおすすめしません。
そのため、自分が普段からよく使う文章で練習するのがおすすめです。文書作成・メール・ブログ・SNSなど、パソコンを使う人なら何かしらテキストを入力しているので、それらからタイプウェルFTにコピペして練習してみましょう。
その他
エミュレータがキーボードの入力をローマ字として出力するなら、寿司打などのローマ字入力しか使えない練習サイトでも練習できます。
自分があまり詳しくないので具体的な相性はわかりませんが、ネット上には実例がいくつかあるので、おそらく可能です。
また、エミュレータによってローマ字入力としてカウントするということは、ローマ字入力と同じ土俵で比較できるということになるので、比較がしやすくなりそうですね。
※ただしイータイピングの場合は例えば「っ」だとローマ字入力は手前の子音連打なので1打鍵相当ですが、エミュレータだと xtu の3打鍵としてカウントされるので、エミュレータのほうが実際よりも有利な成績になる場合があります。過大評価に気をつけましょう。
親指シフトを断念・挫折した事例
親指シフトは習得できればいいですが、腱鞘炎・速度が上がらない・環境が合わないなどの理由で利用を中止した事例もあります。
- 親指シフト断念(10ヶ月、腱鞘炎)
- かな打ちへの羨望と、: 配列のきろく(約半年、NICOLA、押下圧軽めのキーボードを経て最後は35gの専用キーボードだったが腱鞘炎)
- 親指シフトに移行しなかった理由 – teblog(1年半、NICOLA→飛鳥、速度上がらず、元々ローマ字が速い、出張など複数PCを使う環境)
- 親指シフト雑感 その1|ポッチンルーム(1年間、NICOLA、速度上がらず)
- [日本語入力] 親指シフト系配列の感想 – itouhiroメモ(約半年?、断念というかNICOLAをやめた理由が参考になる。その後JISかな)
- どうしてもローマ字入力より速くならないけど親指シフト奨励する記事を書くよ|アルパカのサンドバッグ(2年、NICOLA、ローマ字より速くならなかった。元々ローマ字が速い)
- iPad Proでブログ執筆がはかどる – Decent Point(約4年半、親指シフトが良いのはわかっているが、モバイル環境に合わない。かえうちでも面倒になってしまったというのが事例として参考になりそう。※環境の変化で復活する可能性もあるかも)
- 親指シフトをあきらめた件|唯乃なないの庵(期間不明、普通のキーボードでNICOLAから始めて親指がしんどいのでorz配列に変更。最終的には小指がつらくて断念)
- 親指シフトの練習を4年ぶりに再開~ローマ字入力で感じたもどかしさから脱却を目指します | JunoIwami(断念してから4年後に再開。過去の断念した時系列・練習内容・感想が細かく書かれているので参考になる。)
- 他にも途中で辞めた例はありましたが、1ヶ月以内に辞めたものなどは事例としてあまり参考にならないので掲載していません。
どれもそれなりに断念した理由が書いてあり、どんなことが親指シフトのハードルになっているのかが垣間見えます。(その他、親指シフトに挑戦すると書いたものの自然消滅したブログとか、やってらんねーというツイートも時々見かけます。)
断念した記事を読んでいて怖かったのは、痛みを感じたまま練習すると腱鞘炎になってしまうこと。ローマ字入力より打鍵数は少なくても、同時打鍵に必要な力は大きくなるので、これから親指シフトをやりたいという人は、打ち方(姿勢・フォーム)やキーボード選びに無頓着にならないように気をつけてください。一度痛めてしまうと、その後、気楽に打てなくなってしまいます。
とくに、「親指シフトは打鍵数が少ないので腱鞘炎になりにくい」というのは個人の主観が多く、実際は上記のように腱鞘炎になることもあります。
腱鞘炎になるかどうかはキーボードの押下圧・年齢・姿勢・運動不足・指の強さなどにも左右されるので、打鍵数の少なさだけで安心しないように気をつけてください。
(魚拓ですが)「親指同時打鍵に対する疑問の説いろいろ」という記事では、親指の運動方向が他の指と90度違う・手首の回転・上下運動についてなど、さまざまな書籍や現場からの引用を交えながら書かれています。
現在ローマ字入力で腱鞘炎が心配になっている人は、人から聞いたおすすめだけでなく、「ほんとに大丈夫?」という考えを持ちましょう。
特にNICOLA系はシフトが連続する場合も押しっぱなしじゃなく1回1回打鍵(逐次打鍵)するので、極力押下圧が軽いキーボードが推奨されていますが、富士通の純正キーボードや押下圧が軽いキーボードの値段が高いために、押下圧が重いメンブレンキーボードを使ってしまいやすい状況も影響しています。
さらにNICOLAで気をつけたほうが良い裏付けとして、1万字のかなを入力する場合の打鍵数という記事によると、NICOLAの動作数はかな数と同じ1万回になりますが、左シフト1,644打・右シフト2,585打(シフト合計4,229打)があるので、1万字のかなを入力するのに必要な総打数は14,229打になります。特に右シフトは他の指よりもかなり打鍵数が多いので、強い親指とは言っても負担を軽視できません。
ちなみに上記の記事の中でローマ字入力は動作数・総打数ともに17,019回で、動作数はNICOLAの1.7倍ですが、総打数は多めに見ても1.2倍にしかなりません。
ローマ字入力は全て単キー打鍵でロールオーバー打ちもできることを考えると、NICOLAは果たしてどれほどローマ字入力よりも疲れにくいのか?疑問に思います。
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また、親指シフト愛用者は「習得は簡単」と言うことがありますが、裾野を広げて観察してみると、「親指シフトが難しくてなかなか習得できない」「1年たっても生産性が上がらない」など、ブログやTwitterを検索するだけでも苦労している人を見かけます。
もちろん「親指シフトを習得する難しさ」自体は昔と変わってないはずなんですが、今は親指シフトを取り巻く環境がガラッと変わっているので、当然、トータルでの習得コストはかなり増えています。(シェアによる影響については後で詳しく説明します)
そんな中、親指シフトをすでに習得している人が「習得は簡単」と力説しても、それはあくまで主観的なもので、これから習得しようとしている人に響くとは思えません。
少なくとも自分の経験だけで「簡単」と突き放すのは溝が深まるばかりなので、できれば今の親指シフトを取り巻く状況を踏まえた上でレクチャーしていただきたいなと思います。
ローマ字入力で指が痛くなる人は、親指シフトにするかどうかよりも、まずキーボードの押下圧を確かめてください。
一般的なメンブレンキーボードは押下圧が50~60gあり、長時間タイプすると指が痛くなっても仕方がありません。
1日に数時間・数万打鍵するような人は、指の痛みと疲れを軽減したいなら、そもそもメンブレンキーボードではなく、押下圧の軽いメカニカルか静電容量無接点方式のキーボードを検討してみてください。
また、メカニカルや静電容量無接点方式で多く採用されている押下圧45gでもそこそこ軽いですが、静電容量無接点方式の押下圧30gは劇的に疲れにくくなって世界観が変わるほどです。
指が痛い・疲れることで悩んでいる人は、配列うんぬんよりも、押下圧の軽いキーボードを使ってみてください。そのくらい、45gと30gはあまりにも指への負担が違います。
Realforceのまとめ記事にも静電容量無接点方式の押下圧について詳しく書いているので、タイピングが疲れやすいと思っている人は見てください。
以上、なんだか調べるうちにNICOLAに対して否定的な内容ばかりになってしまいましたが、これから親指シフトをやろうかなと思っている人は、親指シフトバンザイ!という情報を鵜呑みにせずに、よく考えて決めてほしいなと思います。
親指シフトが普及しない理由
親指シフトが普及しない一番大きな理由は何と言ってもシェアが少ないことで、全てのことに影響しています。
- 初期状態のIMEには入っていない(JIS規格じゃない)
- 学校の授業はローマ字入力(ローマ字入力しか使えない寿司打を使う授業もよく見かける)
- 職場で使えない可能性が高い(セキュリティ的な理由や共用PC)
- 自宅・外出先・職場・出向先など、場所やデバイスが複数になると入力環境の維持が大変になる。
- 何らかのソフトウェア(エミュレータ)かハードウェア(かえうちなど)が必要になるので、導入に手間がかかり、ある程度のIT知識が必要。
- 配列は一長一短があり自分に合うものを決めないといけず、選択が難しい(ネットで情報収集しても、それぞれの主観で書かれているので迷う)
- エミュレータは、Windowsアップデート・新しいOS・Webブラウザやソフトウェアのバージョンアップで使えなくなることがある。(とくにChromeとMacで多い)
- エミュレータの開発者が個人だと、長い目で見ると開発ストップする可能性を考えておかないといけない。
- 親指シフト向きのキーボードが少なく、純正は値段が高い。純正以外のキーボードでも、富士通が推奨している押下圧の軽さは種類が少なく値段が高いため、親指シフトに向かないキーボードで練習してしまいやすい。
- 英語配列のキーボードや、スペースキーが長いキーボードを使いたくても使いにくい。海外展開しているメーカーのキーボードはほとんど英語配列だし、Realforceの現行モデルはスペースキーが長くなるなど、全体的に親指シフト向きのキーボードがかなり少ない。
- ノートパソコンでは入力しやすいキーボードの選択肢はほぼ無い。外付けするとデスクトップパソコンと変わらない使い勝手になってしまうので、モバイル用途は親指シフト環境を構築しにくい。
※特に会社勤めの場合は、職場と自宅のPC環境を同じにできない可能性が高く、ローマ字入力との両刀使いから逃れられずにストレスを感じている人が少なからずおられるので、親指シフト導入を検討している人は事前に入念にチェックしたほうが良いと思います。
人によっては、親指シフトを練習することによって、もともとできていたローマ字入力が遅くなったり、忘れたりする場合もあるようです。
去年の10月から親指シフトに移行してタイピングの効率は良くなったけど、かわりにローマ字入力を忘れつつあって「自分のPCのキーボード以外使えない」という状況に。
これは逆に作業の効率が悪いのではないかと思ってローマ字入力に戻してみる。— リョータロー@地域おこし協力隊任期終了 (@ryotaromm) July 4, 2018
これから親指シフトを練習しようと思っている人は、常に親指シフトが使える環境ならいいですが、転職など仕事環境の変化によって親指シフトが使えなくなる可能性が出てくるかもしれません。
何回か見かけた例としては、親指シフトとローマ字入力、どちらも中途半端になってしまい、結局生産性が上がらない状態です。
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職場にエミュレータをインストールする際の障害としては、フリーソフトのやまぶきRだけでなく、有料ソフトのJapanistさえ許可されなかった事例があります。このような状況だとどうしようもありません。
やまぶきRの許可が降りなかったのですよ(>_<)
「得体の知れないソフトはダメ、信用ある有料ソフトを」
で、富士通?の有料ソフトを提案したら、
「それを入れてパソコンに何かあってもシステム部は責任とれませんからね!」と怒られた次第(>_<)
— にぽっくめいきんぐ (@mamantick) November 11, 2018
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現状では親指シフトを挫折してしまう・習得してもフル活用できない環境になりやすいことに加えて、そもそもそのハードルを超えてまで親指シフトを習得する必要があるのか?ということになります。
↓以下、ローマ字入力だけでこと足りる場合が多いんじゃないか、という根拠。
- 和文の入力速度が直接関わってくる人じゃなければ、ローマ字入力でもこと足りる。生活や仕事に支障がないなら、高いハードルを超えてまで他配列を習得する意味がない。
- さらに効率を求める場合はショートカットキー・キーリマップ・単語登録・AZIKなどのローマ字テーブルカスタマイズによる効率化・高級キーボードの購入など、ローマ字入力のままでも伸ばせる余地がたくさんあり、今まで鍛えてきたスキルも無駄にならない。
- 親指シフトが登場した当初と比べると、IMEが進化して変換精度や予測変換が賢くなっている。ネット上の資産をコピペして利用する機会も増えている。エディタによる補完機能など、タイピングの量を減らしやすい環境になった。
- すでにローマ字入力が相当速い場合、親指シフトで今まで通りの作業量をこなすにはかなりの練習が必要になる。(高速入力だと、すべて単キー打鍵ロールオーバー打ちできるローマ字入力のほうが相対的に恩恵を受けやすい)
ってところでしょうか。
そもそもキーパンチャーのような、ひたすらデータを入力する職業なら純粋な入力速度が成果に直結しますが、
事務仕事で問合せ返信やメールする機会が多い人は、入力スピードと同じくらい、定型文・単語登録などの省力化や、ショートカットキーなどのパソコン全般の作業効率が重要になるし、ブロガー・ライター・小説家・脚本家のような、オリジナルの文章を生み出す職業の人は思考速度も重要になります。
以上のように、タイピングスピードが最重要ではない仕事が多いので、入力方式を親指シフトにするかどうかの重要性は低くなります。
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ちなみにローマ字入力が普及した理由、その他の配列が普及しなかった理由として、放送大学の日本語文書処理における入力方法の標準過程(PDF)という論文も参考になりました。
結局、親指シフトの配列がそこまで悪いわけじゃなく、昔(親指シフトが標準搭載されていたワープロ時代)と比べて(環境的に)、
親指シフトを導入するハードルが格段に上がり、習得した後のデメリットが昔よりも増えてしまったということになるんじゃないでしょうか。
もっと端的に言うと、メリット部分は変わってないんだけど、デメリット部分が増えた、という感じでしょうか。結局、「そこまでやるか?」ということです。
せめて親指シフトがJIS規格になっていて、世の中に当たり前のように普及していればもっとユーザーは多かったんでしょうね。
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上記のように、親指シフトはすでに「もっと普及させよう!」という段階ではなく、「興味を持った人を挫折しにくいような環境にする」ほうがよっぽど意味がある段階になっています。
学生に親指シフトをすすめてはいけない
ここまで書いてきたシェアの問題を踏まえると、将来どんな仕事をするのかわからない学生に親指シフトをすすめてはいけません。
- 学校の授業がほぼ確実にローマ字入力
- 職場で親指シフト環境を構築しにくい
- 派遣のスキルチェックで親指シフトは使えない
- 事務作業程度だと、入力方式でそこまでの差が出ない
というのが主な理由で、多くの学生にとっては親指シフトのスキルが無駄になってしまう可能性が非常に高いのが現状です。
特に大学生だと、在学期間中は自分のノートパソコンでレポートを書くから快適かもしれませんが、社会に出た時に共用PCしか使えない職場やセキュリティが厳しい職場だと、親指シフトが使えないのが普通です。
その場合、同じ時間をローマ字入力のタイピング練習していたほうがまだマシになってしまいます。
実際、「一生懸命親指シフトを習得したが、社会に出てから職場で使えないので無駄になった」という人や、「自宅で親指シフト・職場でローマ字入力という別々の環境にストレスを抱えてしまう」という人を、親指シフトについて検索していると時々見かけます。
懐かしの親指シフト、、最初にワープロ習った時はこれが一文字あたりワンアクションで早いからーと言われて一生懸命練習したのに、社会に出てからどこにもなくて、結局ローマ字変換でずっと過ごしてる。ローマ字変換でもそれなりの速度はできるけど、せっかく練習したのにもったいなかったねw https://t.co/qC9o6Mkds8
— ゆりもぐ (@yurimogu) September 26, 2018
私も家では親指シフトに戻したいけどとなると職場でキーボードを打つときに指が思い出せずしばし固まるので断念した。それだけ親指シフトは打ちやすいんだと思う。 https://t.co/daSjjSYcpN
— とりほ (@tbt3as) September 26, 2018
就職する時に商工会議所でワープロ検定取ったけど、親指シフトだったから、勤め先がJISで全然できないじゃん!って言われて悔しくてローマ字配列覚えた。かな配列を覚えなかったのは「和文はまた規格変わるかもしれん、英文はタイプライター時代から変わってないから未来も残るだろう」と。合ってた。
— 水の阿波 (@mizuno_awa) February 19, 2019
会社のPCでは親指シフトを使えないのがつらい。いったん慣れるとローマ字入力ではまどろっこしくてまどろっこしくて。
— R.h. (@nominal_r) May 22, 2019
やっぱりローマ字入力に戻すか
ローマ字入力→親指シフト→かな入力→ローマ字入力
って馬鹿みたいなことやってんなぁ・・・
親指シフトも、かな入力も、それなりのタイピングスピードになるのに結構かかったのになぁ。親指シフトは自分のPCしか使えんし、かな入力は右手小指が過労死するし・・・
— Nari (@Nari0_9) August 29, 2019
参考:親指シフト 無駄 OR 職場 OR 会社 – Twitter検索
このような理由のため、進路が決まってない段階で親指シフトを習得するのは(時間損失的な)リスクが高いことを肝に命じておいたほうが良いでしょう。
そのため教える立場の人は、親指シフトが普及してほしいと思っていても、学生の進路によって慎重に判断する必要があります。
※大学教授は、このデメリットに気づきにくい環境かもしれません。
学生のうちから文字起こしをするなど、すでにそういう活動をしている人なら親指シフトに取り組んでいいかもしれませんが、そうじゃない、普通の学生には親指シフトをおすすめできません。
単に文字入力が速くなる・楽になるという理由だけでは、まだデメリットのほうが大きいのが現状です。
先生は「親指シフトは良いものだ」という想いがスタート地点になってしまうと、相手にとって最適な選択肢にならない可能性がある、ということを認識しておくべきでしょう。良い入力方式だからという理由だけで全員にすすめるのは無責任だとも言えます。
ーーー
親指シフトの話はここで終わりです。
その他のキーボード配列
それ以外にもさまざまなキーボード配列があるので、導入したいという人は自分で調べてみてください。
今まで見たことがあるものを列挙するだけでも結構あります。
- ローマ字系(行段系)
- かな系
- 独自:
※その他「いろいろなカナ入力配列」というページでは、更新されなくなったものも含めて多くの配列を見ることができます。
どれも一長一短あるので、キーボード配列に興味がある人はぜひ上記の名前で検索してみて、先人がどんなカスタマイズをしているのか一度よく読んでみてください。
ーーー
個人的にローマ字入力者にとってコスパが一番良いのはAZIKです。今まで積み上げてきたスキルがほとんど無駄にならずに、使いたいパターンだけを部分的にローマ字テーブルのカスタマイズで導入することができて、ソフトウェアをインストールする必要がなく、標準のIMEの設定だけで実現できるので、職場でも使えます。
月配列はブログ「コジオニルク」さんの「月配列Kとは」という記事で特徴・導入・派生配列について良くまとまっています。また、月2-263、月配列Kのカテゴリが、ゼロの状態から成長記録を詳細に記録していて非常に参考になります。月配列の練習開始から約1年でタイプウェル常用XD(40秒切り)を達成していて、他にも月配列タイパーが何人かいるので、高速タイピングに耐えられる配列ということは実証されているようです。ただし「月配列は難しい」という記事に書かれている通り、ローマ字・JISかな・月配列で一定以上のレベルまで習得した上での感想が書かれているので一読の価値ありです。タイプウェルの基本常用語で照らし合わせると「ローマ字は経験15年以上でXJ」「JISかなは5ヶ月半でSAになったが右手小指の痛みのため使用中止」というのも参考材料になります。キーボード配列についてこれだけの情熱を持って集中して練習に取り組み、分かりやすい記録も残しているという人はほぼ居ないので、とても貴重な解説サイトです。
↓手元付きの打鍵動画。月配列は前置シフト方式なので、同時押しの親指シフトとはリズムが違います。
ーーー
新下駄配列は作者のkouy(@y_koutarou)さんがかなり速く、この記事を更新している時点でタイプウェル35秒あたり。清濁別置のため、習得難易度が高いほうだと言われていますが、極めた姿が見られるので、かなり説得力があるんじゃないでしょうか。Twitterで新下駄配列に取り組んでいる人たちの成長度合いを見ても、十分に高速タイピングすることが可能に見えます。打鍵数について、「新下駄配列で1万字入力する場合の打鍵数」を見ると、かな系配列の中でも少ない打鍵数になっています。ただし速度を求めるなら(シフトが絡むかな系全般に言えることですが)ロールオーバーできる・できない組み合わせを把握して瞬時に判断する必要があるので、単純なスピードアップとは別のテクニックが必要になります。それについては「新下駄配列でもロールオーバーで打てる部分」が非常に参考になりそうです。作者自身がここまで習熟していれば、導入を検討している人の不安を減らすことができますね。
※新下駄配列ほど使用者が目立たず動画もありませんが、けいならべという行段系配列もkouyさん開発。説明を読むだけで、記憶負担が少なく、拗音や句読点の配置が合理的なことがすぐに分かります。
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薙刀式はカナ系配列としては珍しく、スペースキーの長いUS配列でも使用でき、文字キーの組み合わせによる編集機能も組み込まれています。また、競技タイピングのような入力速度を追い求めているわけではなく、「長編を書くため」というコンセプトで設計されています。紹介動画がしっかり作られているので、どのような入力風景になるのか分かりやすいのも良いところ。
手元と入力文字が同時に見れる動画は珍しく、十分なスピードで打った時にどのようなミスが発生するのか、細かく観察することができます。開発者の大岡さんも認識している「てい → てぃ」に化ける問題や、濁点のために同時押しした時の判定ミス「うか → づ」「で → あて」「らか → ぶ」「が → か」などがどのようにして起こるのかわかります。
これらのミスは高速になるほどロールオーバー打ちによって発生しやすくなるため、薙刀式に限らず、シフト打鍵を用いる配列全般の問題と言えそうです。
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蛇配列作者の なっと(@danield52024924) さんはタイピングの練習に意欲的で、ご自身でタイプウェル50秒切り。配列の作者が高速タイプできると明確な説得力になるし、そのような人は少ないのでぜひやれるところまでやって欲しい。
かわせみ配列のsemialtさんもタイプウェルを結構練習していて、「自作配列のタイピング速度」という記事に、タイプウェルのキャプチャ付きでまとめられています。その他、かわせみ配列の祖先にあたる「こまどり配列」「よだか配列」という配列もあります。
いろは坂配列は、めんめんつ(@mentype2)さん開発の、単打キーが非常に多いカナ系配列。もともとタイプウェルK(かな)基本常用語で、JISかな入力で約29秒(ZJ)と、基本的なタイピングレベルが高いこともあり、いろは坂配列で111日目にタイプウェル39.3秒。200日目にタイプウェル32.4秒に到達しています。
↓いろは坂配列の打鍵動画。日常的な漢字変換込みの文章なので、実際に使う場合の使用感として参考になると思います。練習開始から約7ヶ月の時点で、まだまだなめらかに打てる見込みが高そうです。カナ文字に単打を多く使っているので、記号の入力に課題があるかな?という印象。
ーーー
こうしてみてみると、どの配列でもタイプウェルで60秒を切ることは可能に見えますね。
むしろ、一定以上よりも速くなるかどうかは、本人の練習次第なところもあるので、記録だけを参考に配列を決めるのではなく、配列の得手不得手を吟味してから決めたほうが良いと思います。
なお、タイプウェルでの比較をよくしていますが、実は配列同士の比較として、なかなか優秀な仕組みになっています。
タイプウェルRはローマ字入力で打つと400打、タイプウェルKはかな入力で打つと280打ですが、カナ文字数は以下のように、だいたい同じような数になります。
(それぞれ5回ずつカナ文字数をカウントしました。濁点は「が」→1かな、拗音は「きゃ」→2かな、というふうに、原稿用紙に書くのと同様にカウントしています。スペースキーはカウントしていません)
R(400打)→カナ190・195・199・201・209
K(280打)→カナ192・197・198・201・201
出力されるカナ文字数がだいたい同じなので、ローマ字入力とかな入力の比較だけでなく、どの配列と比較してもだいたい同じ基準で比較できるということになります。
入力する内容も、日本語でだいたい一般的に使用される単語・文節・接続詞などが含まれるので、それなりに平準化した文字を打つことになり、偏りが出にくいと思います。
ーーー
さて、ここまでさまざまな配列を紹介しましたが、ローマ字入力を練習するのと、その他の配列を習得するの、どちらがトータルで良いのかよく考えましょう。
考え抜かれた配列はどれも魅力的ですが、すでにローマ字入力が実用的なレベルになっている人は、配列乗り換えのメリットが小さくなります。
速くしたい・疲れにくくしたいというのが目的なら、先に「Realforce」など、良いキーボードを使うことを検討しましょう。
他にもショートカットキー・単語登録・ローマ字テーブルのカスタマイズなど、効率化できる余地はたくさんあります。
データ入力のような職業でもない限り、入力速度そのものは最重要にはなりません。(ライターなどの執筆業だとしても、思考速度がボトルネックになるので、最大速度で入力する機会はほとんどありません)
導入のハードル・環境の相性・仕事内容の相性を乗り越えてもメリットが大きくなりそうなら、導入する価値があると言えるでしょう。
ーーー
また、エミュレータは「開発ストップ」「Windows大規模アップデートで文字入力ができなくなる」「新しいOSに一時的に対応できなくなる」などの事例が実際にあるので、自力で問題を解決できるようになっておき、ローマ字入力やJISかな入力も使えるようにしておく必要があります。
配列を知ってもらうためには
ここからはちょっと配列作者さん寄りの内容になります。
いろいろな配列を検索して強く感じましたが、知りたいと思っている人にとっては、以下のコンテンツが用意されていることがとても重要です。
(とくに動画。ダントツで動画)
YouTubeの打鍵動画
配列を知ってもらうためには、YouTubeの打鍵動画が最重要です。
- どこまで速く打てるのか
- どのくらいの忙しさでどのくらい文字入力されるのか
- 手のバタつき・上下左右に移動する具合
- 拗音・外来音・記号などの入力しやすさ
- キーボードの物理的なキー配置によって入力しやすさが変わるか
などなど、動画が最も知りたいことを伝えられます。
BGMなしで、ただただ打鍵している動画でも、配列の導入を検討している人の本気度なら見れるので、凝った編集をする必要もありません。
ただし配列の使い方が伝わるように構成を考える必要はあると思います。最低でも、手元を上から見た視点で、手元と文字入力される画面の両方が見れる状態。
動画のタイトルに配列名を入れておけば、YouTube検索とGoogle検索、両方のSEO対策にもなります。YouTube内検索のボリュームも馬鹿にできません。
Google検索でも、すでにYouTube動画の順位は上位になりやすく、サムネイル画像付きで目立つように表示されます。
たとえばYouTubeの打鍵動画をしっかり作っている「薙刀式」の場合、Googleの検索結果にサムネイル付きで目立つように出てきます。
↓以下、「薙刀式」のGoogle検索結果。
GoogleのSEO対策でも動画の重要性はどんどん増していくので、YouTubeに動画があるだけで、上記のように検索ユーザーの目を引くことができるようになります。
※ちなみに ニコニコ動画は Google検索で不利、サイト内の検索ボリュームが少ない、シークが不便、アプリの使い勝手が悪い、Twitterから見たときにシークできない・最大化が戻せないなどのバグ、スマホのブラウザから見ようとしてもエラーで表示できずに「アプリで見てください」と言われることがある、ニコ動アプリで説明文の中のURLが飛べない、投稿者の他の動画にアクセスしにくい、シェアされにくい、アクセス解析が無いなど、多くの難点があって単純にユーザーにとって使いにくいので、YouTubeに投稿したほうが良いです。
それに、機能うんぬん以前に、YouTubeは第2の検索エンジンと言っても過言ではないので、ニコニコ動画しか投稿していないという時点で機会損失になってしまいます。
ちょっと余談ですが、打鍵動画を観察するのにおすすめな動画閲覧アプリ「nPlayer」の紹介。
参考:新たなnPlayerが登場!今後は3つの価格帯での展開に | reliphone
以下の2つの機能が非常に便利。
- (上下スワイプ)再生速度を0.1倍速刻みで変更
- (左右スワイプ)シーク
YouTube動画からOpenerというアプリを経由してnPlayerで再生するのが便利。
参考:このアプリがすごい No.22 Opener – iPhoneの便利さを加速するExtension | reliphone
残念ながらニコニコ動画は途中でシークができなくなる・「アクセスする権限がありません」と表示されて止まるなど、快適に視聴できないことがよくあります。
YouTubeは普通に視聴できます(昔はダウンロードしてオフラインで視聴できましたが、今はできなくなりました。でも十分に快適です)
自分で持っている動画ファイルがあればローカルフォルダに入れてオフラインで見ることもできます。
nPlayerは3つバージョンがあってややこしいですが、最初の参考リンクをよく読んでください。
個人的に無料版は広告が邪魔で使いにくいので、真ん中の無印がおすすめ。
公式サイト・ブログ
だいたいのキーボード配列は公式サイトが用意されてますね。
配列名で検索したらトップに出るようになれば、配列名の指名検索で一応の役目を果たせるので、専用のドメインまで取らなくても、無料ブログやGitHubでとくに問題なさそうです。
ただし、複数ページに情報を分散させるよりはメインとなるページをしっかりと作り込んだほうが、検索される場合も、シェアされた時の利便性も良くなります。
情報としては配列図・導入方法・得意とする用途など、導入を検討している人が必要な内容を。
ただし、文章での説明は読む側の気合いが必要なので、できれば配列図を画像にして解説があるとベターです。
配列を簡単に作成できる「キーボード配列」共有スプレッドシートを作りました。
↓このような配列図を作れるテンプレートを用意したので、配列開発者さんは使ってみてください。
シフト面が多い配列には9面まで対応。格子配列のテンプレートもあります。
そして、Webサイトはいくら充実させても離脱する読者がいると思っておいたほうが良いです。(ユーザーの本気度にも左右されるでしょうけど)
作者がどんなに良いと思って細かく説明しても、読んでもらえなければ意味がないので、上記のように画像・動画が重要になってきます。
その他
あとはTwitterなどのSNS。直接やり取りできるのが良いときもありますね。
ただし、例えば作者がTwitterしかしてなくて、他の人がブログを書いてる場合は検索で下位になる可能性があるので、SNSよりは公式サイトのほうが重要です。
また、SNSだとどうしても情報が散らばるので情報収集にも向いておらず、メインページ(知りたいと思って検索するユーザーからの入口)としてSNSを利用するのはおすすめしません。
ちなみに、「Twitter動画」はページとして評価されないからSEO対策にならないし、タイトルもヒットしないので、入口としては機能しません。せっかく動画を作るならYouTubeにしましょう。
ーーー
他にもあるかもしれませんが、YouTubeに動画投稿されていることが何より重要になります。
「何ができるのか」「何が苦手なのか」「どこまでできるのか」などが分かる動画が1個だけあれば十分、という感じ。
かえうち
キーボードと端末をUSB接続して、キー配列をカスタマイズできる変換アダプター「かえうち」という製品があります。
かえうち はUSBキーボードとシステム(PC/タブレット/スマートフォン)の間に接続します。ユーザーのキー入力を一旦 かえうち が受け取り、事前に設定したキー配列に従って一般的なキー配列(QWERTYローマ字入力)に変換し、変換後のキー入力をシステムに伝えます。変換は一瞬*1で行われます。
※1:単純なキー並び替えの場合で、遅延0.009秒未満。
引用:製品概要 – かえうち
ハードウェア側でキー信号を変換しているので、OS(Windows・Mac・Linux・iOS・Android)や機器(PC・スマホ・タブレット)の制限を受けません。つまりUSBキーボードが使える組み合わせなら何でも使えます。
デフォルトで親指シフト以外の配列にも多数対応しており、有志で作られる配列はユーザーフォーラムに投稿されて共通でき、自分で完全カスタマイズすることもできるので、理論上は(かえうちの仕様内なら)どんな配列でも使うことができます。
今まで親指シフト関連で問題になっていた相性問題や環境の制限を、別のアプローチから解決できる、画期的な製品になっています。
かえうちユーザーの統計データ
かえうちが2018年9月で1周年を迎え、さまざまな統計データが公開されました。
参考:かえうち1周年まとめ!販売数&キー配列統計情報公開! – かえうち
データを見る限り、少なくとも数百人は親指シフトやその他の配列に利用している人がいるようなので、改めてかえうちの存在感を実感できます。
まとめ
調べてみると、親指シフトは配列としては優れている点もいくつかありますが、やっぱりシェアが少ない問題が大きすぎて、すべてのことに影響しているという状況です。
JIS規格になってパソコンに最初から入っていたら全く状況が変わってたと思うんですけどね。
自分は使っていませんけど、親指シフトを使いたい人が問題なく使える環境は維持され続けてほしいと思います。
その意味ではエミュレータが全部一気に使えなくなることは考えにくく、プラットフォームを選ばない「かえうち」もあるし、やろうと思えばJISキーボードでも使いやすい環境を構築できるので、すぐに絶滅してしまうような心配は無く、まだまだ大丈夫だと思います。
ただし、今回この記事を書く過程で感じましたが、現在の親指シフトユーザーはかなり昔から使っている人が多く、新しく始める人は環境を整えるハードルが高くて1年以上続く人が少ないように思うので、世代が変わるくらいの年数が経つと全体のユーザー数はかなり減るんじゃないかと思いました。
ーーー
入力方式の記事は、贔屓目がある記事が多いのですが、すごくフェアな記事だと思いました。
自分は親指シフターなのですが、それは単に何故か最初に親指シフトを覚えたからです。そこからローマ字を覚えるのは、そりゃもうイライラしたので、そもそも別の入力方式を覚えることがハードル高いと思います。
今はローマ字でも基本的には困りませんが、外来語、例えばクトゥグアとか、ローマ字では瞬間にどのキーを打つか出て来ません。笑
慣れの問題で、単純には「じ」「ぢ」の問題でもあるのですが、こう言った苦労が無いのが親指シフトのいいところじゃ無いかなと思います。
正直打鍵速度はローマ字の方が圧倒的に早く、対して親指シフトは早いというより、楽というイメージです。
滅びゆくものへの郷愁と最初に習得した思い入れから、親指シフトは捨てられませんが、ローマ字習得は今は必須だと思います。多様性の観点からも親指シフトも無くならないでほしいですが。